himac遠心機の開発現場を見てきました!

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毎分4万回転(40,000rpm)以上の遠心機は、超遠心機と呼ばれています。
超遠心機で世界をリードするブランドhimac(ハイマック)を製造するのが、
工機ホールディングス株式会社(旧 日立工機株式会社)です。
茨城県にある工場で、himac遠心機の開発に関わる皆さまにインタビュー!

設計担当の楠元様は、小形超遠心機CSシリーズの開発を担当されました。
その時の話を中心に、超遠心機開発について教えていただきました。

超遠心機の開発の難しさ

cs150nx
開発したCS150NXは、小ささと静かさが特徴

40,000rpmを超える高速回転をする超遠心機の開発は、通常の遠心機開発に比べ非常に難しいそうです。
何が違うのか? どう難しいのでしょうか?


 『小形超遠心機CSシリーズの最高回転数は、毎分15万回転(150,000rpm)です。
この時サンプルには、1円玉(1g)が小型自動車(1トン)になる程の力 105万Gが掛かっていて、サンプルを入れて回すローター外周部は、時速約2,500km、マッハ2を超えています。
ここまでくるとローター周りの空気が重要になってきます。 150,000rpmでは、空気とローターにより発生する摩擦熱が5,000W以上、ドライヤー数本分もの熱が生じるのです。
この熱からサンプルを守り、スムーズな回転を実現するために、超遠心機ではローター室内を真空にする必要があります。超遠心機の開発は、モーターだけでなく真空技術なども重要なポイントになるのです。

 150,000rpmは、1秒間に2,500回転するスピードです。
開発設計をしていますが、正直なところ想像できない世界です。
測定器でデータを取ると150,000rpmという値が出てきますが、マッハ2って言われても、、、、
普段は回っているところが見えないですし、イメージできないですよ(笑) 

さらに難しいのが、回転機械を開発するとき、普通は回転部のバランスが崩れないように設計・製造する事が当たり前です。
バランスが崩れていると振動や音が発生するからです。理論的には完全にバランスが取れていれば、回しても振動はゼロになります。

ところが遠心機は、回転体にサンプルを入れる。しかも液体を複数の容器に入れます。前提がアンバランスなんです。
バランスが崩れた物を速く静かに回せという厳しい世界が超遠心機の開発です。
私が入社した頃の小形超遠心機は最高120,000rpmでしたが、ずーっと離れた部屋からも「遠心機を回しているね」言われるぐらい、キーンという音がしていました。』


静音化に向けて

音が出ることから機器室に設置されるケースが多い超遠心機ですが、新型の超遠心機を開発するに当たり、各自の実験室に置けるパーソナルユースタイプが開発目標とされました。

『身近に設置するためには、とにかく「コンパクトで静か」であることが重要です。
特に実験台の上に置く卓上型は、研究者の身長などから本体の高さの上限が最初に決まりました。
音については、図書館に置いても気にならない45dBを目指しました。』

実際、目の前に稼働中の小形超遠心機CS150NXがあるのですが、動いていると気付かないほど音が小さいです。
どのように音を小さくしているのでしょうか?

騒音測定中
測定室で、音がどこから出ているのか測定する

『静音化には、防音対策音源対策があります。

防音対策は荒っぽい言い方をすれば「厚い鉄板で囲う」の様に、お金を掛けてサイズを無視すれば何とでもなるのですが、音源の騒音を直接下げる音源対策は一般的に難しい。
今回は「コンパクトで静か」を目指すにあたり、まずは音源対策に注力しました。

騒音解析ではサーモグラフィの様に、音を可視化するシステムを使って、正面から見た際の音の分布図を作成。
どこからどんな音が出ているのか?を解析しました。

そして、部品ごとに素材、大きさ、形状から、どういう時にどんな音が出てくるのか?固有値解析などをおこないながら、音源対策をしました。
この様に、音源の騒音を直接下げることで、防音にはそれほどコストをかけず、静音化を実現できました。』


 

音の可視化 音を可視化することで、分かりやすい結果が得られた



cs150風路
排熱のための風路設計

音の発生源に対策をする事で、防音が簡略化できて、コンパクトで静かな装置が開発できたのですね。
さらに本体を小さくするために気を付けたポイントはどこでしょうか?

『コンパクト化で一番大変だったのは、熱を逃がしながら音を逃がさず、小さくするということ。
この時、ポイントとなるのは本体内の風の流れ、風路の確保です。
超高速回転するモーターや真空ポンプなど、本体内にはいくつか熱源があります。
そこから小さな風路でどの様に熱を外に逃がすか?が難しい。
先程、音源の騒音を小さくした話をしましたが、騒音が0になった訳ではありません。
「熱が逃げる=音も逃げる」なので、熱対策は音の事を考えながらやる必要があります。

たとえば、本体前面に吸気の穴を開ければ良く冷えますが、そのぶん音が出てきてしまう。
そこで本体モデルでの流体解析結果をもとに、正面は穴を開けずに両サイドから空気を吸う構造にしたり、電子基板の形状を見直して風路を確保するなど、部品の形やネジの位置など1mm以下の単位で試行錯誤した結果、「音を出さずに熱を出す」という相反する設計を実現、目標値に到達したのです。』


騒音、固有値、流体解析と、様々な解析をした上で、最終的に試作品で計測し、さらに詰めていくという手法で開発された小形超遠心機CSシリーズ。
シリーズには卓上型のCS150NXと、床置き型のCS150FNXという2タイプがあり、どちらも音の大きさも含め、仕様は同じになっており、実験室の環境に応じで選べるようになっています。
ちなみに日本国内は約9割が床置きですが、海外では卓上型が人気の様です。

超遠心機の将来について

楠元さま
設計担当 楠元さま

今までは「他社よりも高速回転の物を!」と開発してきたそうですが、最大どこまでいけると思いますか?

『180,000rpmぐらいまでは行けるのではないか?と思います。
ただ現実問題として、そこまで回してもアプリケーションがなく、現状では「何に使うの?」という事になります。
大形超遠心機で100,000rpm、小形超遠心機で150,000rpmが、現時点でのユーザーニーズとのバランス点かな、と感じています。』

従来、超遠心機はライフサイエンス分野でのニーズが多かったのですが、
最近はインク業界、ナノ粒子など材料系でのニーズが増えてきて半々ぐらいになってきたとのこと。
顔料粒子の微小化などインク業界や、より小さな生体分子の研究などが進む事で、さらなる超遠心機が求められれば、開発が進む可能性もあるようです。


安全に対する取り組み

遠心機は、何百kgの負荷、時速何千kmという非常の大きな回転エネルギーを持っているため、誤った使い方によって生じる事故は非常に危険なものです。

安全対策はどの様にされているのでしょうか?

高橋様
開発責任者 高橋さま

『社内社外の事例を残し、社内で共有しています。
また、国際規格IECに遠心機に対する規格があり、20年以上前から対応しています。

具体的には、EMC試験という電気的な安全性のテスト。
ここでは遠心機が発する電気ノイズや電磁波で周りの機器に悪影響を与えない事と、周りから変な電磁波を受けても誤動作しない事が確認されます。

さらに高速回転中にローターが破断しても外部に破片が出てこない事を証明するMCAと呼ばれる破壊試験をおこないます。
この試験は、1台の遠心機を壊すことになるので時間もお金もかかるうえ、試作がある程度進んだ段階でおこなうので、試験に通らないと開発スケジュールを大幅に見直す事になります。
開発担当者のメインイベントとなる試験です。

試験方法としては、ローターに切り込みを入れることで、高速回転中にローターを真っ二つに破断させます。
ローターは粉々になりますが、外に破片が飛び出してこない事を確認するのがMCA試験なのです。
高速回転中の事故に対する安全を証明する物なので、運転開始直後、規定回転数前に割れてしまうと試験自体が無効になってしまいます。
それは困るので、計算値よりも若干浅めに切り込みを入れます。すると中々割れない。場合によっては割れるまで1週間ぐらいかかる時もあり、開発者のドキドキが続く日々になります。

このMCAは新製品開発ごとに実施します。
破片は外に出ていませんが、遠心機の蓋を開けると金属の焼ける臭いとバラバラな部品があり、どれほどのエネルギーを持っている機器を普段扱っているのか?を実感するよい場となっています。』

実際、運転中にローターが割れることはあるのですか?

『取扱いの誤りなどで、こぼれた試薬などがローターの穴を腐食し、ローターの底が抜ける事は起こり得ますが、高速回転中にローターが真っ二つになることはまずあり得ません。
しかし、起こり得ない破断が起きたとしても安全なら、通常の不具合であれば問題ないという規格主旨なのです。
膨大なエネルギーを扱ための、万全を期す規格になっています。』

ローターについて

強度の計算
インタビュー中にも数式が出ました!

ローター開発担当の佐藤様に、ローターの開発で難しいことを聞いてみます。

『超遠心機用に限らず、遠心機のローターは強度が求められますが、その一方で軽くする必要があります。
軽くする理由としては、使う人が取り外したり持ち運ぶときの負担はもちろんですが、軽い方が強度があるからです。』

重くて頑丈な方が強度がある様に感じますが、
軽い方が強度があるとは、どういう事でしょうか?

ローターを持つ佐藤様
ローター設計 佐藤さま

『遠心機は、回転による遠心力でサンプルに非常に大きな力を掛ける装置ですが、その力は、ローター自体にも同様に掛かります。
ローターが重たいと、掛かる力が非常に大きくなりローター自体が変形してしまいます。
そこで、強度が維持できる範囲で軽くする事で、余計な力が掛からないようにするのです。

たとえばこの大きなローターはアルミ合金製で、中を可能な限り肉抜きして17kgに抑えてあります。
このサイズで肉抜きをしなかった場合、23kg位になるのではないでしょうか。

今は3D-CADの普及により簡単に三次元モデルが描けますが、コンピュータが発達していなかった入社当時、この様な肉抜きデザインは困難でした。』

オリジナルローターを作りたい

ローターのデッドスペース
ロータ内にデッドスペースが!?

ローターの開発は、外寸が遠心機本体側で決まってしまうので、その中での工夫が求められます。
事例として、ユーザー様から「一回の遠心で少しでも多くの試料を分離したい」
という要望を聞き、ローター外寸が同じなのに、多くの試料を入れられたら他社にないオリジナルのローターが作れるのでは?
もしかしたら特許が取れるのでは?と検討を開始されたそうです。

三角柱の遠心ボトル

『1Lボトルが4本入る大きなローターを観察すると、ボトルに対して金属部分の面積が結構あると思いました。
このデッドスペース部分を何とかできないか?と考えて到達したのが三角のボトルです。
ボトルが三角柱型なら、ローター内を無駄なく使えると考えたのです。

では作ってみようとなったのですが、
ローターの穴を三角形にするのは、図面さえしっかり作成すれば、切削マシンの加工時間が増加するぐらいで、三角だから特別に手間がかかるものではありませんでした。

大変だったのは、三角形のボトルです。普通の丸いボトルは、半割りした金型を用いてブロー成形により左右二つの貼り合わせで製作していますが、
三角ボトルは単純に半分にする訳にいかず、3つの貼り合わせになっています。これは樹脂加工担当がかなり苦労したようです。』

前代未聞の三角ボトルとローターによる遠心分離は、実際使えるのか?
大学の先生による実証試験などを経て市販にたどりつきましたが、価格が高くなってしまった事もあり、
社内では「使えるの?売れるの?」という評価だったそうです。
しかし、1Lの丸ボトルに比べ、三角ボトルは1.5Lの容量となり、同外寸ローターで1.5倍の処理能力を実現。
発売すると海外を中心に非常に好評になり、特許も無事に取れたとのことです。

ローターの素材について

三次元切削マシンで加工すると伺いましたが、ローターは大きな金属の塊から削り出すのですね? なぜ黒いんですか?

『ローターは一つずつ、茨城県にある当社本社工場で大きなアルミ合金の塊から削り出しで作っています。
非常に多くの切粉が出るので、素材を無駄にしている部分があり今後加工方法なども検討していく必要があると感じていますが、寸法精度を考えると、今は削り出しが最適な手段と考えています。
アルミ合金なので、削り出した直後のローターは銀色ですが、腐食防止のためにアルマイトや塗装で黒くしています。』 

さまざまなローター



全てのローターがアルミ合金製なのですか?

『利用する素材は、強度と価格で使い分けています。
たとえば、鉄は、強度があって価格も安いのですが、強くても重たいため、最初にお話しした通り、遠心力がかかった時に自身の重さで変形してしまいます。
遠心機に用いるためには、強さと軽さのバランスが重要なのです。
そこで、基本はアルミ合金。それでも駄目ならステンレス、さらにはチタン合金としています。アルミ合金は、いくつか種類があるのでそこも使い分けています。
チタン合金は非常に高価なので、強度的にチタン合金が必須となる超遠心機用ローターのみチタン合金製になっています。
素材でいえば、カーボン繊維も軽くて強いのですが、長期間使用することを考えると耐久性の面から金属を選択しています。』

耐久性というお話が出ましたが、ローターに寿命はあるのでしょうか?

『見た目の変化はありませんが、回転中は強い負荷がかかるため徐々に劣化します。
主には金属疲労と、保管中や試料をこぼしたことによる腐食などがありますので、アルミ合金製のローターは保証期間を7年としています。
15年を超えたローターは、リスク回避の観点から廃棄するようお願いしています。』
※超遠心機用ローターは使用回数/使用時間による寿命規定あり


最後に、ローター開発の将来についてお聞かせください。

ローターセット


『個人的には、軽くて強い金属としてマグネシウム合金を使ってみたいです。
マグネシウム合金は理想的なのですが燃えやすいので、回転中に何かあった時に発火の恐れがあり現時点では使えません。
しかし遠心機同様、軽さと強度と難燃性が求められる航空機用材料において、
「燃えないマグネシウム」が登場したと聞いたので、非常に興味があります。
それ以外では、樹脂系の高耐久素材、たとえばナノセルロースなどの今後の発展にも注目しています。』


生産用遠心機

連続遠心機
CC40NX連続遠心機

遠心機という研究現場では身近にある装置ですが、その開発におけるこだわりを聞く事ができ、 非常に面白いインタビューでした。 またインタビュー後、工場を見学させていただきました。

工場内では、小形から大形、低速から超遠心まで、多くの遠心機が作られており、
世界各国の電源仕様に合わせた、検査を受けていました。

工場内で特に目についたのが、大形のCC40NX連続遠心機で、一般的な遠心機とは全く見た目が違います。
これは世界中の製薬会社やワクチンメーカーなどでワクチン製造に用いられているそうです。

様々な用途に合わせた遠心機を取りそろえるhimacブランド。
今後、アプリケーションの進化、ユーザーニーズにより、さらに高速・大容量でより静かなど、新たなモデルが登場してくる事でしょう。

本記事で紹介した製品はこちら!

cs150nx
  • 小形超遠心機CSシリーズ

  • ◀電子冷却(ペルチェ)で、ノンフロン・精密な温度管理・静音化を実現
    ◀2種類の真空ポンプ(粗引き用と高真空用)を直列に接続し、真空になるまでの時間を半減(10分→5分)
    ◀真空状態を「低・中・高」の3段階で表示し、中になるまでは低速回転(5000回転)後、自動的に加速を再開し、15万回転まで最速80秒
    ◀ローターはチタン合金製(一部アルミ製もあり)。ネジ止めやボタンなどなく置くだけのためネジ閉め忘れや、ローターが外れないトラブルを防止
    ◀LAN接続対応。専用ソフトLogManagerを用いて1台のPC で遠心機16台までの運転記録と現状の確認が可能

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