PHC株式会社 超低温フリーザー開発者インタビュー

PHCフリーザー開発秘話ヘッド画像

「7つの目標を達成し、世界一のフリーザーを作る!」

2018年4月、「パナソニック ヘルスケア株式会社」は、「PHC株式会社」へと社名が変わり、新ブランド「PHCbi」として新たな道を歩み始めました。 そして、この時、新ブランドを象徴する特徴ある新型の超低温フリーザーが発表されました。
今回、新型フリーザーの開発に当たり、社内で組織横断プロジェクトとして難題に取り組まれた開発プロジェクトメンバーの皆様にインタビューしました。


1.新会社「PHC」の成り立ち

SAR-130M

MDF-U400VX
超低温フリーザ MDF-U400VXM

1966年、薬用保冷庫を発売した事がきっかけで、ライフサイエンス業界への参入した「三洋電機株式会社(当時)」。
これが50年以上の歴史となり、「PHC株式会社 バイオメディカ事業部」に続いています。


1977年には超低温フリーザー、1985年にはCO2インキュベーターを発売、
さらに海外での販売もスタートします。
1990年には、世界初の-152℃冷却を実現した超低温フリーザー、そして2000年にはCPC(細胞調整室)事業で再生医療分野にも参入を果たします。

MCO-170AICUVH
過酸化水素除染機能付インキュベータ MCO-170AICUVH

 

その後、リスク回避のために冷凍機能を2系統搭載した「デュアル冷却システム搭載超低温フリーザー」
庫内の除染を短時間でおこないコンタミを防ぐ「過酸化水素除染搭載付CO2インキュベーター」など、他社にないエポックメイキングな製品を次々投入。
赤い「Sanyo」ブランドは、世界中のライフサイエンス業界に広まりました。

2012年、三洋電機会社がパナソニック株式会社に買収されたことにより、社名を「パナソニック ヘルスケア株式会社 バイオメディカ事業部」とし、青い「Panasonic」ブランドのもと、環境問題に配慮したノンフロン冷媒の省エネ型超低温フリーザーや、メンテナンス性の向上など研究者の使い勝手を追求したCO2インキュベーターを発売してきました。

2014年、「Sanyo」「Panasonic」の2つのブランドにて多くライフサイエンス研究者を支えてきた実績を活かしパナソニックグループからカーブアウト
2018年4月、新社名と新ブランド「PHC株式会社/PHCbi」として事業展開を開始しました。

2.新製品開発・社内横断プロジェクトの発足

プロジェクト統括 高魚さま
プロジェクト統括 高魚さま

新ブランドとなるに当たり、Sanyo・Panasonic時代を超えるインパクトをライフサイエンス業界に与えるべく、
2015年4月、超低温フリーザーの新製品開発プロジェクトが発足。 プロジェクトを統括した技術部の高魚様がプロジェクト発足時を振り返ってくださいました。


「新ブランドとして発売する最初の超低温フリーザーは、省エネ性能が高い「VIP ECO」シリーズと、デュアル冷却システム搭載の「TwinGuard」シリーズをターゲットに、全くのゼロベースから製品開発としました。

「従来の開発体制とは異なる環境・異なる視点が必要」と考え、
技術設計部門だけでなく、商品企画、営業・マーケティング、工場モノづくり、品質保証、R&D、知的財産など、製品に直接的、間接的に関連する各部門のメンバーを巻き込んだ組織横断プロジェクト体制とすることにし、メンバーを集めました。」


3. 7つの開発目標

プロジェクトリーダー 新井さま
プロジェクトリーダー 新井さま

各部門から高魚様の元に集まった総勢34人のプロジェクトメンバーで、国内外の競合他社の製品・仕様・ポジショニングの分析やディスカッションを重ね、7つの開発目標を立てられたそうです。

プロジェクトリーダーを務めた技術部の新井様に、その「7つの開発目標」を教えていただくことができました。

1. 製薬企業など、全世界的に拠点展開するお客様とのパートナーシップ強化を目的とした「グローバル統一モデル」
2. 世界最高レベルの省エネ性能。(ノンフロン冷媒「VIP ECOシリーズ」の目標)
3. 貴重な試料の保存リスクの更なる低減。(デュアル冷却搭載「TwinGuardシリーズ」の目標)
4. 設置/搬入性を向上させた上で、収納効率を向上させる
5. コントロールパネルだけでなく、ユーザーが日常接するすべての部分において、従来機種より使いやすさを向上させる
6. 長期保存時の課題を解消する新たなメカニズムの開発
7. 従来のイメージを刷新するまったく新しい外観デザイン

「この7項目は、国内外のお客様の声、マーケットと競合品の仕様を考えつつ、競争を勝ち抜くためにプロジェクトメンバーが必要な要素をリストアップしていった結果です。
正直、ハードルが高い目標だと思いましたが、これを達成することが、Sanyo・Panasonic時代を超える超低温フリーザーを生み出すことができる条件だと考えました。」



4.難航する開発

筐体設計リーダー森さま
筐体設計リーダー森さま

開発プロジェクトにとって、最初の大きな課題は、
「4:設置/搬入性を向上させた上で、収納効率も向上させる」という、
ある意味、矛盾した目標の「新しい筐体(プラットフォーム)」開発だったそうです。


「収納効率を向上させる早道は、外寸/内寸を拡大することです。しかし、これは、搬入時にエレベーターに入らなくなったり、設置スペースが拡大することにより、ラボのレイアウトに影響する恐れがあります。
収納効率はお客様に評価いただけるポイントでしたので、必ず実現したいと考えました。」

筐体設計のリーダーである技術部の森様は、お客様を訪問し、あらためて超低温フリーザーが使用される現場を見て、 
「矛盾する2つの目標を同時に達成するためには、外扉側で断熱する“外扉断熱方式”だ」という考えに至ったそうです。

内扉とそ扉の図

「超低温フリーザーは、庫内の断熱性を高めるため、外観上の扉(外扉)と、その内側にもう1枚の扉(内扉)があり、どちらの扉で主に断熱しているか?という視点から「内扉断熱」と「外扉断熱」の2つの方式に分類できます。
従来は、設置面積(外寸)をコンパクトにできる内扉断熱方式を採用していました。
一方の外扉断熱方式は、庫内の収納スペースを大きく取ることができるという特徴がありますが、どうしても外扉の幅/厚みが内扉断熱よりも大きくなります。
なので、外扉断熱で設置/搬入性を向上させるためには、性能を維持したまま外扉自体を薄くしなければなりません。

今回、外扉断熱方式を採用するに当たり極限まで外扉を薄く軽くしましたが、扉内に断熱材として入っている発泡ウレタンは、製造時に収縮する性質があり、剛性を維持しないと扉が反ってしまします。
そこで補強板の検討や真空断熱材の配置など、扉表面の反りとうねりを低減できるよう様々な設計シミュレーションをおこないました。
最終的に、筐体はほぼ従来サイズのまま、収納効率を約10%向上させる事ができました。」

さらに、新筐体では、さらなる搬入・設置性向上のため、製品の軽量化と部品点数の削減についても検討。
フレーム部以外では最も重い部品である台脚の軽量化に着手しました。
「台脚は筐体の重量を支持する強度、輸送/移動時の耐衝撃性を確保することが必要ですので、軽量化を図りつつも、これらの機械的強度を満足することが大変でした。
そして、台脚をメインとした様々な部品の軽量化を進めた結果、今回開発したMDF-DU702VH-PJでは、従来モデルに比べ60kgの軽量化ができました。
またキャスターの大型化も同時に実施し、軽量化と可動性の両面から搬入・設置性を向上させています。」



回路設計者 須藤さま
回路設計者 須藤さま

一方、冷凍回路設計を担当する技術部の須藤様は、従来機種においても他社に比べ優位性のあった「省エネ性能さらに引き上げ世界最高レベルに」という目標を実現するため、超低温フリーザーで初めてインバーター制御の搭載を決定しました。


「家庭用のエアコンや冷蔵庫では、インバーター制御の搭載が進んでいますが、長期にわたり、お客様の大切なサンプルを保存する研究用途となると、信頼性担保のため、きめ細かで安定性のある制御が求められ、冷凍回路自体の見直しが必要でした。
特に、コンプレッサーの負担軽減と、省エネ性能を両立できる最適値の決定までにはトライ&エラーを重ねました。
また、省エネ性能の向上にあたり、断熱性能が向上した新筐体は非常に大きな助けとなりました。」



こうして完成した一次試作モデルは、従来とほぼ同じ設置面積を維持。
また、外扉断熱構造により、庫内の中仕切りをなくすことが可能となり、収納効率の向上とともに、棚のレイアウトフリーを実現。
これにより他社製品からの買い替え時に課題となる「貯蔵ラックの流用」が可能となりました。

また、従来は扉が厚かったために、貯蔵ラックを取りだすためには扉を大きく開く必要がありましたが、外扉を薄型化したため、内扉を直角まで開けることができれば、貯蔵ラックを出し入れすることができる様になりました。
断熱性能を向上させたこの新プラットフォームと、きめ細かな制御設定を行うインバーター搭載コンプレッサーにより、世界最高レベルの省エネ性能が実現できる目途も立ったそうです。

「最初に決めた7つの目標の中で、難度が高いと考えていた筐体と省エネ性能が達成できそうな気配がしてきたのは良かったのですが、まだ解決しなければならない課題は山積みでした。
しかしこれらも含めて実現できないと、プロジェクトが最初に設定した目標に届かない製品になってしまいます。これからの私たちのフラッグシップとなる製品は、なんとしても7つの全てをクリアしたいと考えていました。」(プロジェクトリーダー新井氏)



5.更なる挑戦

マーケティング担当者 高野さま
マーケティング担当者 高野さま

マーケティング部の高野様に、この次世代機の一次試作モデル確認会の思い出を振りかえって戴きました。

「以前、担当していた製薬会社では、超低温フリーザーを、3台、5台、10台と複数並べて設置していました。
その際、「内容物が取り出せるまで扉を開けた時、扉が隣のフリーザーに当たらない間隔を空ける」という事を常に考慮してた事を思い出しました。


それは従来の内扉断熱では、出し入れする際、扉を大きく開けなければならなかったからであり、
新型は外扉断熱にしたことで『扉を直角まで開けば出し入れができる』。
このメリットをもっと活かすべきだと思いました。

新プラットフォーム

外扉を大きく開けなくても内容物を取り出せる。
それは、フリーザーの設置間隔を詰められるということです。


「もっと間隔を詰められないか?」と考え、
会場で製品デザイナーに「左右の角を斜めにカットしたら、ドア開閉時に隣のフリーザーぶつからないし、新しい個性あるデザインになるのでは?」と言ってみたんです。」

デザイン担当 望月さま
デザイン担当 望月さま

デザインを担当した技術部 技術管理課の望月様は、従来モデルとの外観差を出したいと考えていました。

操作性を向上させるための大型カラータッチパネルを一次試作につけてみたところ、確かに見え方は変わったものの、直方体の外観が大きく変わった印象がありませんでいた。



「高野さんの左右をカットするというコメントを聞いたとき、製品の機能をカタチで表現できる手法として、「これはいける!」と思いました。


設計部門とシミュレーションした結果、製品左右を斜めにカットすることで、
3台並べて設置した場合、従来モデルより約10cm設置スペースを短くすることが分かりました。

さらに、Sanyo、Panasonic時代に使用されてきたグレーの本体色をホワイトにすることで、従来との違いを明確に打ち出す事にしました。
この提案はプロジェクトメンバーの賛同を得ることができ、新型フリーザーの特徴になりました。

これらの取り組みや、特徴的な「EZラッチドアハンドル」の使いやすい操作性など、ラボでの利用品質の向上が評価され、
「VIP ECOシリーズ」、「TwinGuardシリーズ」は、2018年度のグッドデザイン賞を受賞することができました。」





陰圧除去ポート担当 岡田さま
陰圧除去ポート担当 岡田さま

一方、技術部の岡田様は、長期保存時に陰圧で扉が開かなくなるという超低温フリーザー特有の課題を、従来と異なる方法で解消すべく試行錯誤を重ねていました。

「庫内が極低温に冷やされることで中の空気が収縮、結果、外の気圧とフリーザー内の気圧差で扉が開かなくなる現象が超低温フリーザーでは発生します。

陰圧ポート

この問題の解消法として、自動陰圧開放ポート搭載は私たちにとって初めてであり、その機構だけでなく、フリーザー内のどこに設置するのか? 吹き出し口の形状、吹き出し温度など、何十タイプも試行錯誤を重ねました。
凍結によるポートの稼働停止を防ぐためのヒーターを内部に影響しない場所に装備すること等、様々な工夫をして快適に扉の開閉ができるようになりました。
さらに二重の安全設計として、手動の陰圧開放ポートも装備し、より安全で快適な保存環境をご提供できたと思います。」


6.Here we go ! To customers all over the world !

この様に様々な目標をクリアして誕生した新型の超低温フリーザーシリーズ「TwinGuard」「VIP ECO」
2017年9月、欧米地域への先行販売に向けた出荷式が群馬工場で開催されました。

新プラットフォーム

そこでは、プロジェクトメンバーを含め開発・生産に携わった全てのメンバーが、「Here we go! To customers all over the world! (さあ! 世界中のお客様に!)」と大きく描かれた10トントラックがクラクションを鳴らしながら出発するのを見送ったそうです。

「出荷式に参加した北米販売会社のスティーブン・ライナム社長から、『待ちに待った新製品。ここまで頑張ってくださった皆さんのバトンを受け取り、今後は私たち営業部門が頑張ります』というコメントは、ここまでの長い道程が報われた瞬間でした。」(プロジェクトリーダー新井氏)

その言葉のとおり、「VIP ECO」シリーズのMDF-DU702VHは、超低温フリーザーで初めて、北米で省エネルギーラベリング制度「ENERGY STAR認証」を取得。
大手製薬企業のR&D拠点・製造拠点で続々購入が決定する素晴らしいスタートダッシュを見せました。

そして、2018年4月。
新社名「PHC株式会社」と、青と赤の新しい「PHCbi」ブランドを掲げた国内向け「TwinGuard」「VIP ECO」両シリーズの新商品発表会が、販売代理店向けに全国6カ所で開催されました。

特約店お披露目会

発表会で、商品説明を担当された国内営業部 東京営業所 御所様のお話です。 「長年、弊社の超低温フリーザーをお取り扱い頂いている、目の肥えた販売店のご担当者様より、『マーケットインでの商品コンセプトがよくできている』、『省エネなどコンセプトがしっかりしており、とても売り易い仕様です。』というような賛辞のコメントを頂くとともに、『今後も魅力ある製品を期待してます。世の中にないような新しい製品を作って欲しい』という私たちへの期待のコメントを頂き、身の引き締まる思いでした。」

新製品

この発表会と同時に発売された「TwinGuard」シリーズに続き、7月には「VIP ECO」シリーズ (単相100Vモデル)の発売を開始。
そして、2018年秋には、「VIP ECO」シリーズの三相200Vモデルが順次発売。




過去からの歴史・実績・技術を踏襲しつつ、従来の超低温フリーザーが持っていた課題を解決したPHCbiの新しい超低温フリーザー。
フリーザーはすでに成熟した技術と思っていましたが、開発者の皆様の声と情熱からは、まだまだ進化する気迫を感じました。

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    信頼性抜群、2系統の冷却システム搭載「Twin Guard」シリーズ

    ◀外扉断熱方式採用
    ◀両端カットデザイン
    ◀陰圧解除機構搭載
    ◀大型タッチパネル

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