KEYSTONE THE LAB OF YOUR DREAMS

3分でわかるキーストーン


『どうしておなかが減るのかな? オプトジェネティクスで食欲の謎に迫る!』



オプトジェネティクス

脳や神経の研究手法を大きく変えた「オプトジェネティクス(光遺伝学)」は、将来、ノーベル賞が確実と言われるほど注目される技術です。

オプトジェネティクスによって、何が変わるのか?
日々改良が進んでいる器材とはどの様な物なのか?

NIHでオプトジェネティクスを学び、鹿児島大学で食欲に関する実験を
おこなっている楠本先生にお話を聞きました。







なぜ食欲の研究? なぜオプトジェネティクス?


楠本先生は、人の健康に関わる研究がしたかったことから大学院では医学系に進まれました。多くの医系分野の中から専攻を迷っていた時、教授から聞いた話に惹かれて嗅覚を選ばれたそうです。


挿絵_植物と動物の遺伝子


自然界では果物など、独特の匂いがする食べ物がある。
植物は果実を動物に食べてもらい、種を遠くに運んでもらう事などに価値を見出しているため、その匂いは、動物の食欲を促進している。
果実の匂いは、植物が持つ遺伝子から作られた酵素によって生み出された匂いの分子、つまり元々は何かしらの遺伝情報である。
その匂いを嗅いで、食べ物であると認識し食欲を刺激されると言う事は、動物側の脳にも遺伝子レベルで決められた法則があるのではないだろうか?


「この話を聞き、匂いを作る植物の遺伝子と食べ物の匂いを認識し摂食行動を起こす動物の脳のメカニズムの関係を調べるのは面白そうだと思いました。 匂いから食べ物を知覚するメカニズム自体も良く分かっていないということだったので、まずはそこを明らかにすべく、大学院生の間はずっと嗅覚系神経細胞の電気生理学的研究を行っていました。


視床下部は、脳の中央に位置していて動物の本能に関わると言われており、嗅覚と食欲の研究をする上でも非常に重要な部位です。 しかし視床下部はいくつかの異なる機能を持っている神経核の集まりで、その中に異なる反応をする細胞が入り混じっている事が分かってきました。
 摂食関係で言うと 摂食を促進する細胞も、抑制する細胞もすごく近い場所にあるのです。これでは昔ながらの電気生理的な記録実験や刺激実験、破壊実験、薬理学的な抑制実験をおこなうと、両方の細胞に影響を与えてしまい、どちらを見ているのか分からなくなってしまいます。
視床下部は、非常に面白い脳領域だと多くの研究者が認識しているにもかかわらず、アプローチができない部位だったのです。」

そこにオプトジェネティクスが開発され、視床下部へのアプローチが示唆されました。

オプトジェネティクスは、2003年に植物プランクトンからチャネルロドプシン2(ChR2)という光応答タンパク質が発見された後、一気に技術が進みます。 チャネルロドプシン2は、青色光(460nm)を受けると陽イオンを透過させる性質(細胞内にNaイオンを取りこむ)があります。 同様に黄色光(590nm)でCl-イオンを取り込むハロロドプシン(HaloR)や、緑色光(575nm)でHイオンを細胞外に出すアーキロドプシン(Arch)などに応用され、これらの光応答性タンパク質を神経細胞に組み込む事で、光を当てるだけで神経を活性/抑制させる技術として確立されてきました。

これら光応答性タンパク質を特定の領域に発現させる事で、視床下部の様な複雑に細胞が入り混じった状況下でも、特定の神経細胞だけを光を用いて刺激できる様になってきたのです。




オプトジェネティクスの実験系を組み立てる


 その後、楠本先生は、NIH(National Institutes of Health:アメリカ国立衛生研究所)にあるオプトジェネティクスの第一人者Dr. Bonciのラボで研究する機会を得たことから、オプトジェネティクスを用いたアプローチを始めます。このラボでは、様々な光通信用の部品やレーザ光源などを調達し、自分たちでオプトジェネティクスの実験システムを組み上げていたそうです。

日本に帰国後、鹿児島大学でオプトジェネティクスの実験を始めるに当たり、アメリカで経験した様に、様々な器材を調達し実験システムを組もうとしましたが非常に苦労されたとの事。

光を使って神経を刺激するオプトジェネティクスの実験を始めるに当たり何が必要なのでしょうか?

「まず必要な物は、光応答性タンパク質を神経や脳の細胞に組み込んだ動物(マウス)です。
そして器材としては、体内の特定の細胞部位に光を照射するシステムと、観察手法が必要になります。

 光応答タンパクを動物に組み込む作業はジェネティクス(遺伝学)の様々な手法が必要となり非常に難しい部分です。幸いなことに、私は共同研究先である名古屋大学から最適なマウスを譲っていただく事ができました。
しかし、光を照射するシステムが課題でした。
レーザー光源や光ファイバはなんとか入手する事ができましたが、光ファイバを動物に接続する部分の小さな部品が手に入らなかったのです。」


京セラ_白いカニューラ


楠本先生が学ばれたNIHでは、マウスへの負担が小さく日常動作への影響を最小限にするため、外径が1.25mmしかない小さな筒状フェルールに、短く切った光ファイバを取付けた「カニューラ」と呼ばれる部品を作製。カニューラ先端から出た細い光ファイバが刺激部位に届くよう手術で頭蓋骨に固定していました。









光刺激を与える際は、レーザ光源に接続された光ファイバとマウスの頭部に取り付けられたカニューラを、スリーブと呼ばれるセラミック製の筒で接続します。 機械的なロック機能がある訳ではなく、カニューラ外径とスリーブ内径がピッタリに作られているため、差し込むだけで装着され、マウスの動き程度では抜けず、実験終了後にまっすぐ引けば光源側光ファイバを簡単に外せる構造になっています。


オプトジェネティクス_システム全体図


「このフェルール/カニューラとスリーブを入手するに当たり、アメリカで購入していた業者に確認したところ日本への配送をおこなっていませんでした。そこで日本の出入り業者さんに相談したのですが、予想以上に手間とコストがかかってしまう事が分かりました。何か同様の物が手に入らないかweb検索したところ、似た物が見つかり早速メールしました。」

そのメールは、通信用の光ファイバ部品を製造している京セラに届きました。通常、通信事業者から、数十万~百万個単位で受注する光ファイバ部品を、医学部が数十個だけ購入希望、、という問合せに興味を持った担当者が連絡した事から、関係が始まったそうです。

「通常ではありえない極少数の対応だけでなく、オプトジェネティクス用に最適化もして戴きました。

 例えば、接続部からの光漏れによりマウスが視覚的に刺激を得てしまわないよう、私たちはカニューラ周辺を熱収縮チューブ(黒いゴム管の様な物)で覆っていました。しかし、マウスの視床下部は左右対になっており、その両方に光刺激を与えるためには2つのカニューラを非常に近接した位置に固定せねばならず、このカバーを付けると太くなってしまい光ファイバが上手く取り付けられないという課題がありました。
 またフェルールは、非常に小さく表面が滑らかなセラミック部品のため、実験の際に頭部から抜けやすいという問題や、カニューラを作る際に切断した光ファイバをフェルールに固定する作業、光ファイバの断面を傷がない鏡面に磨く作業でも苦戦していました。」

これら課題に対し、光漏れ対策のカバーが不要になる黒いジルコニアセラミック素材の開発や、フェルール外周部に段を付けて抜けづらくしたフェルールの製作、さらにパーツ同士の接着や切断面の研磨など、専門技術を持つ京セラが対応したことで、実験が非常にスムーズに進んだそうです。

段付きカニューラ black_1



この先の計画について


名古屋大学から譲り受けたマウスと、新たに開発された光刺激用の部品を用いる事で、楠本先生の食欲に関する実験がスタートします。

嗅覚などの大脳辺縁系からの刺激を受けて放出されると言われているオレキシンは、摂食を促進すると言われています。
楠本先生は、オレキシンの働きを実証するため、視床下部のオレキシンニューロンへの刺激実験を進めています。
「オレキシンニューロンを刺激すると動物が餌を食べる事が分かっていますが、それはなぜなのか?
十分に餌があり、いつでも食べられる環境下で飼育しているので空腹ではないはずなのに、オレキシンニューロンを刺激すると餌を食べる。
これは、刺激によっておなかが空いた感じがするのか?それとも、いつも置いてある餌が突然魅力的に美味しそうに見えるのか?
動物はしゃべってくれないので、なぜ摂食が促進されているのか分からないのです。
また、オレキシンニューロンを刺激していますが、オレキシンニューロンだけが摂食に関わっている訳ではなく、他の神経と関連して最終的に”食べる”という行動に結びついていると考えています。しかし、どの神経と関係しているのか全然分かっていません。これを解明するために、オレキシンニューロンの出力先がどこなのか?を見る研究も進めています。
具体的には、大脳皮質が鍵になっていると考えています。実際、オレキシンニューロンは大脳皮質に軸策を送っています。オレキシンの様なモジュレータが大脳皮質を活性化させ、結果として餌を食べるのではないか?この仕組みを解明したいと思います。」

この研究を通じて、嗅覚などの外部刺激、空腹感などからくる食欲、そして摂食行動への関連を明らかにし、摂食障害などの治療薬開発に役立つ結果を出したいと語る楠本先生の研究は今後さらに加速していく事でしょう。






鹿児島大学 医歯学総合研究科
助教 楠本 郁恵 先生



2009年 東京大学大学院
医学系研究科 機能生物学専攻 細胞分子生理学教室(森憲作教授)にて博士研究員

2010年 NIH(National Institutes of Health)
National Institute on Drug Abuse (NIDA)にて博士研究員

2013年 鹿児島大学 (現職)



株式会社 京セラ



本記事で紹介した製品はこちら!


京セラ株式会社

京セラでは、フェルール、カニューラ、スリーブをはじめとした オプトジェネティクスに関連した各種パーツの販売をおこなっております。
記事にもある通り、特注にも対応いたします。
オプトジェネティクスでお困りの際は、ぜひご相談ください。

製品の詳細はコチラから→ オプトジェネティクス製品一覧へ



研究者インタビュー一覧に戻る