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北里大学 小寺義男"


プロテオミクスとは


 “プロテオーム(proteome)”とは、タンパク質(protein)の「prote」と集団を表す接尾語「-ome」を組み合わせた言葉で、体内に存在する各種タンパク質の総体を意味します。また、プロテオーム研究またはプロテオーム科学のことを“プロテオミクス(proteomics)”と呼びます。#1
 プロテオミクスという言葉は、1995年にオーストラリアのWilkinsによって初めて学会で使われて以来、ポストゲノムの一領域として精力的に研究が進められてきました。
そして、2010年前後を境にした質量分析計の飛躍的な高性能化と周辺技術の発展によって、真に網羅的な分析が可能となりつつあることから、生命現象のさらなる理解と医療の発展に幅広く貢献することが期待される分野です。




生命のシステムの担い手、タンパク質


 タンパク質は、生命の様々なシステムの担い手です。小寺先生はタンパク質をロボットの部品にたとえ、「ロボットは、様々な部品を使い、システムを正常に機能させることで作動しています。これに対して、我々生き物は様々なタンパク質を使い、システムを正常に機能させることで生命を維持しています。人間が作ったロボットは、必要な部品の種類、数、機能などすべてわかっています。しかし、生体内の各システムを維持するために、どの様なタンパク質が、どれくらい必要なのか、また、各タンパク質がどのような働きをしているのか、まだまだ分かっていない部分が多いのです」と語ります。



ロボットと生体の違い


 2003年、ヒトのゲノム解析が完了しました。これによって設計図の解読ができましたが、この設計図を基にして作られる各部品(タンパク質)の数や働きや相互作用などはまだ解明できていません。
 プロテオミクスの目的である「生命を担う各システムが正常に機能するために必要なタンパク質の種類や数を正確に分析し、生命現象の理解、病気の診断や治療に繋げていくこと」に向けて、研究が進められています。



小寺先生

飽くなき探求心が導いたプロテオミクスへの道


 今では、疾患プロテオミクスをリードする小寺先生ですが、その原点は医療研究ではなく「物質としてのタンパク質」への飽くなき探求心にあったようです。
「私は理学部出身で、北里大に赴任して5,6年は試験管の中で特定のタンパク質を増やし、核磁気共鳴装置(NMR)を用いてタンパク質の形と機能を解明する研究をしていました。しかし、人が社会の中でこそ個性や役割を発揮するのと同様に、タンパク質も特定の物だけを試験管に入れた状態ではなく、生物のシステム内でこそ、その個性や機能を発揮しているのではないか?」と考えるようになった、と振り返られます。そして、タンパク質の機能を解明するためには生物のシステムから研究する必要があると感じ、2000年からプロテオミクスに取り組み始めたそうです。




北里大学 小寺先生

複雑怪奇なタンパク質解析に必要なもの


 近年、プロテオミクスが飛躍的に進歩した背景に「質量分析計」の性能向上があるのは紛れもない事実です。しかし、血液の血漿成分には10,000 種類以上のタンパク質が含まれていると言われており、それらのタンパク質には 1010 倍(10桁)以上の濃度差があります。そのため、現在の質量分析計ではダイナミックレンジが足りず、血液中のタンパク質を一度に分析する事はできません。


 これを解消するためには、血漿中の微量なタンパク質を目的に応じて取り出するための前処理技術が必要です。しかし、分画すればするほど損失するタンパク質が多くなるだけでなく、再現性も落ちてしまいます。


 2010年、小寺先生らはこの問題を解決する試料調製技術を確立されました。
この技術は、血清や血漿中のペプチド(分子量が約10,000以下のタンパク質)を高効率に取り出すためのものです。これにより血漿中のペプチドホルモンの直接検出が可能になりました。

 このようにタンパク質の前処理技術と解析方法を精力的に開発されている小寺先生ですが、その開発過程では、試料中のタンパク質組成を把握できて、複数のサンプルを同時に比較分析できる電気泳動が不可欠と言われます。



小寺先生

試料調製技術開発における電気泳動の重要性


 電気泳動の大きな利点は、非常に可溶化能の高い界面活性剤(SDS)を使用していることと、個々のタンパク質の濃度を把握できることです。このため、試料中に含まれるタンパク質を正確に把握することができます。だからこそ「質量分析計の性能の向上した現在においても、電気泳動は、試料調製技術の開発において非常に重要なのです」と語られます。
 電気泳動に用いるゲル自体は自作可能ですし、安価な市販ゲル(プレキャストゲル)も数多く存在します。小寺先生は、「普段は自作ゲルを使う事もあります。また、今までに色々な市販ゲルも試しました。しかし、試料調製段階の各ステップの確認、そして正確な比較分析をおこなう際にはDRC社のゲルを使います。その最大の理由は分離能の高さと溶媒の影響を受けにくい点です。」
 分離能の高いゲルを用いると、試料中のタンパク質組成をより正確に把握できることはもとより、個々のタンパク質バンドがシャープになるため、より微量な成分の検出や比較分析も可能になります。また、試料中に含まれる塩や界面活性剤は、タンパク質の分離を乱す大きな要因ですが、DRCのゲルは他のゲルに比べ高塩濃度でも分離できる点が特徴です。


電気泳動写真

電気泳動を用いたタンパク質分析例:血清タンパク質分画物の分析結果
高濃度タンパク質付近にある低濃度タンパク質もしっかりと分離できており、分離能が非常に高い事がわかる。
DRC社製 Perfect NT Gel W, アクリルアミド濃度 10–20% (gradient gel) (銀染色)  



 「またDRCは、レーン数のカスタムオーダーに対応してくれる点も助かっています。今までに31レーンのゲルや、1枚で2サンプルの二次元電気泳動(二次元目の分離)を行うためのゲルなどの特注を頼みました。多くのサンプルを一度に電気泳動できると、スループット向上だけでなく、正確な多検体比較分析が可能になります。」



開発した技術をもとに血液一滴の可能性を拓く


 様々な技術革新で発展しているプロテオミクスですが、細胞や組織試料に比べて血液中に含まれるタンパク質成分の詳細な分析は困難な部分が多く、未だに血液の持つポテンシャルを十分に引き出せているとは言えません。「我々は、生命現象や病気に関係する血液中のタンパク質、ペプチドを分析することを目的としています。特に血液中の生理活性ペプチドの分析には注力しており、独自に開発したペプチド抽出技術と高分解能質量分析計を組み合わせて、血漿0.2mLからアンギオテンシンIやインシュリンB鎖、ソマトスタチンをはじめとした11種類の既知のペプチドホルモンの直接検出に成功しました。これらのペプチドは10~100pMと大変微量であり、例えるなら、競泳用プールいっぱいのお米の中にある1,000から10,000粒のゴマを見つけ出す様なものです。
 血液分析の最終的な目的は、臓器や組織中のイベントを血液一滴でモニターすることであると考えており、最近では様々な臨床分野の先生方と共同研究をおこない、うつ病や糖尿病などに関連したタンパク質・ペプチドの探索も行っています。
血液一滴の可能性を拓く この目的に向けて大学院生とともに日々研究を進めています。」

小寺先生グループの開発した技術により、血液検査だけで様々な病気の早期発見・診断が可能となるような新しい医療の発展が期待されます。



<参考文献>
#1 : 「プロテオミクス辞典」日本プロテオーム学会編



小寺 義男


北里大学 理学部
准教授  小寺 義男 先生

1993年 関西学院大学 理学研究科 物理学専攻 修了(博士(理学))
1993年 日本学術振興会・特別研究員
1994年 北里大学 理学部 物理学科 生体分子動力学研究室 助手
    三菱化学生命科学研究所 客員研究員
1996年 北里大学 理学部 物理学科 生体分子動力学研究室 専任講師
2005年 北里大学 理学部附属疾患プロテオミクスセンター プロテオミクス基盤部門長
2006年 千葉大学 医学部附属病院 疾患プロテオミクスセンター 客員准教授
2008年 北里大学 理学部 物理学科 生体分子動力学研究室 准教授
2009年 北里大学 理学部附属疾患プロテオミクスセンター センター長




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