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3分でわかるキーストーン


GenoDivePharma 猪子英俊


ヒトの赤血球の血液型にはA、B、Oの3種類がありますが、なぜ3種類あるのか?その働きなどは解明されておらず、一般に知られる“性格”との関連性は科学的には全く証明されていません。ヒト赤血球血液型で唯一関連性があるとされているのが、胃がんの主原因であるピロリ菌感染への関与と言われています。
一方で、「白血球の血液型」として知られるHLA(Human Leukocyte Antibody=ヒト白血球抗原)は約16,000種の多型性を有し、多くの役割がある事が分かってきています。HLA遺伝子は、あらゆるゲノムの中で最も多い多型と、非常に複雑なシステムを持つ遺伝子なのです。



HLA研究の歴史


HLAに関する研究の始まりは1960年代に遡ります。臓器を移植する際、免疫反応を起こし拒絶されますが、数百~数千人に一人存在するHLA型が一致したヒトの臓器であれば定着することが分かりました。HLAは当初、移植の成否を決定する遺伝子として見つかったのです。
やがて特定のHLA型を持つ患者が、ある特定の疾患を発症しやすいことが見出されました。
例えば、ある型のHLAを持つヒトは他のヒトに比べ5倍~10倍リウマチになりやすかったり、ナルコレプシー(居眠り病)では1000倍~2000倍発症しやすいことがわかりました。このように特定のHLA型と疾患の関連性が研究された結果、HLAは自己免疫疾患を中心に、200種類ほどの疾病に関係していることが明らかになりました。


さらにHLAは免疫を誘導する事も分かりました。
免疫は、抗体やキラーT細胞を誘導することで体内の異物を駆逐していますが、HLAは免疫誘導にどのように関与しているのでしょうか?


「パンの中央の溝にソーセージが挟まっているホットドックを想像してください。パンに相当するのがHLAで、ソーセージに相当するのが体内に侵入したウィルスやバクテリアから生じたタンパク質(タンパク分解産物)です。タンパク分解産物をHLAが捕まえて抗原提示することを“ホットドックセオリー”といいます。」



ホットドックセオリー

HLAによる抗体提示「ホットドックセオリー」


抗原提示は免疫の最初であり、T細胞(Tリンパ球)に対して異物が入ってきたことを知らせる段階です。
体内に侵入したバクテリアやウィルスが作る様々なタンパク質の一部をHLAが“ホットドック状”に補足し、Tリンパ球に異物が入ってきたことを知らせます。するとTリンパ球はキラーT細胞やBリンパ球を誘導し、抗体やキラーT細胞が異物を攻撃する。これがHLAが関わる抗原提示を通した免疫応答であるとわかったのです。



なぜHLA型は、約16,000種類もあるのか?


体内に侵入してくるバクテリアやウィルスは非常に多く存在する為、抗原提示のために補足するHLAが1種類だけでは全てに対応できません。
さまざまな異物に対応できるよう体内で準備した結果、ヒトでは各個人が最低12種類、全人類としては16,000種類のHLAが存在する事になったと考えられています。つまり、異物侵入があった際、一部のヒトは対応できずに亡くなったとしても、何らかの別のHLA型を持ったヒトでは免疫が働いて生き残ることができるため、ヒトという生物が存続できる仕組みになっている。このように考えると、16000種類もの多型があることの説明ができます。


さらに、HLAはがんワクチンの設計にも有用です。HLAにそれぞれのがんに対するワクチンを挟み込むことで、がんを異物と認識させ、がんに対する免疫応答を高めることができるのです。



HLAタイピングについて


「HLAタイピング」はHLA遺伝子型アリルを調べる検査です。約16,000の型があるHLAをタイピング(型判定)する事は結構難しい作業です。 現在、世界的にHLAジェノタイピングが実施され、多型の解析が進んでいますが、
猪子先生は、日本国内でHLAジェノタイピングを行うことが非常に重要だと語ります。



「例えば、アフリカ人と日本人ではHLA型が大きく異なります。それは周囲に存在するバクテリアやウィルスが異なるためです。自分の周囲の環境に適応しますから、人種が変わればHLA型は異なりますし、同じ地域に住んでいたとしても、世代が変わればHLA型も変化している可能性もあります。そのため、海外でHLAタイピングが進んだとしても、そのデータを日本人用として外挿することは難しく、日本国内で日本人のHLAタイピングを行いデータを蓄積することが非常に重要なのです。」



ジェノダイブファーマ社は、HLA型をNGS(次世代DNAシーケンサ)でタイピングする方法を考案し特許を取得。現在では技術導出先であるThermoFischer-One lambda社よりキットとして販売されています。最近では、このジェノダイブファーマが開発した手法が標準法になりつつある、と猪子先生は語ります。



「HLAは10kbpほどの長さの遺伝子ですが、従来はそのうちの一部、多型性があるとされる約300bpの部分だけを見て型判定をしていました。
しかしこの300bpの部分だけに多型性があるのではなく、HLA遺伝子全体に多型性があることがわかり、全てを解析しなければ正確なタイピングができないことがわかっています。
遺伝子の塩基配列はDNAシーケンサーにかければ、高精度な結果を導くことができます。
最近のDNAシーケンサー(NGS)は、10kbp程度のDNA解析であれば 100サンプル同時に9個あるHLA遺伝子全部を処理できるので、ジェノダイブファーマ社ではいち早くNGSを導入しました。」
その結果、より多くのサンプルを短時間で正確にHLAタイピング(型判定)できる様になったそうです。

また、iPS細胞の臨床使用に向け、2016年からiPS細胞のセルバンク化が進められています。まずは日本国内での再生医療を実現する為に、多くの日本人をカバーできるHLAホモのiPS細胞をストックしています。ここでのHLA解析にジェノダイブファーマは協力しています。



ジェノダイブファーマ 猪子社長

HLAタイピングの課題と将来



急速に技術革新が進むHLAタイピングに課題はあるのでしょうか?猪子先生は、「コストと理解」が課題だと言います。

「現在主流のNGSを使って解析した場合、1検体の解析に数万円かかります。それをいかに安価にできるか?
そのためには安くてパワフルで非常に小型な遺伝子解析装置など機械の進歩が不可欠であり、我々はそのような装置の登場を待っています。

もう一つの課題は、HLAについてよく理解されていないことです。
HLAは様々な疾患、薬剤の効果や副作用に関係しているため、血液型(赤血球型)と同じ様に自分のHLA型を知っておいた方が良いのです。

健康寿命を延ばすことを考えた時、自分がどんな疾患に罹患しやすいかを知っていれば、ある程度生活習慣を改善し予防することができます。
最近、この考え方が知られるようになってきて、複数の企業からDTC(Direct To Consumer)検査という、手軽に700くらいの遺伝子検査を実施できるサービスが提供されています。それらは、脳溢血、リウマチ、がんや糖尿病などに関わる遺伝子検査して、生活習慣の改善などに役立てると言う事ですが、odds比が1.1や1.2など、疾患とあまり関係ない遺伝子を検査していたり、実施する企業によって結果が全然違うこともあります。
一方、HLA型と疾患のodds比は5~1000倍あり、数十年にわたって学術論文が多く執筆されている確かなものです。
血液型の様に、生まれてすぐHLA検査をおこなったり、予防、未病の為に健康診断でHLAタイピングを行ったりするような時代を作りたいです。
弊社のある神奈川県は施策で未病を掲げているので、人間ドックの際にHLAタイピングを取り入れるよう、県に働き掛けています。」



odds比(オッズ比):数値が高いほど、その遺伝子と疾患の関係性が強い事を意味しています。




ジェノダイブファーマ 猪子社長

HLAの奥深さ。疾患から相性まで


なぜ猪子先生はHLAに興味をもたれたのでしょうか?
それは「個性は何から決定されるのか」という哲学的な部分からスタートしていたのです。 「生物には疾病の発症、知能や記憶、性格など個性があります。この個性が何から発生するのか、ということを明らかにしたかった。個性というものは多型なので、多型性のある遺伝子に注目すれば何らかの解が得られるだろうと考えました。
分子遺伝学の真髄は“塩基配列の違いが表現系の違い”であり、塩基配列が1つ違うだけで表現系が変化するならば、この違いがその表現系に対して非常に重要な遺伝子だという論理を築くことができる。そこに遺伝子研究の面白さがあります。






私は最初HLAを研究していて、その後ヒトゲノムシーケンスのプロジェクトに関わりました。2003年にヒトゲノム解析宣言をした時、もうHLAはやるまいと思っていました。
HLAは疾病とのodds比が高いですが、ヒトには23,000くらいの遺伝子があるため、HLAよりも密に病気に関係している遺伝子があるはずと考えていたのです。
そこでヒトゲノム解析宣言後、GWAS(Genome Wide Association Study=全ゲノム解析)で様々なジーンハンティングをスタートし、HLAよりもっと高いodds比をもった生活習慣病などの遺伝子を探したのですが、結果としてはodds比が1.1や1.2のような遺伝子しか見つからなかった。
このようなodds比の遺伝子では薬を作ることができず、あまり成果がなかった。そこで、やはりHLA遺伝子なのだろうと立ち返ったのです。



HLAの多くの役割の中で、一つ興味深い点は男女の相性に関わっていることです。
HLAは匂い(特に尿)に関係していて、マウスは相手の尿の臭いを嗅いで好き嫌いを選ぶことがわかっている。ヒトでも、男性の着たTシャツの匂いを女性に嗅がせて、好き嫌いを選んでもらうことができるのですが、これにはHLA型の違いが関係しています。HLA型で相性診断ができたら面白いですよね」



そんな猪子先生は、どんなことに興味を持っているのでしょうか?

「明確にはなっていませんが、HLAは記憶にも関係していると言われています。
私は若い時から記憶、学習、性格など、ヒトのメカニズムをゲノムを基にして研究したかったので、可能なら脳におけるHLAの役割を研究したいです。 HLA分子が余計なシナプスを壊すことで記憶や学習に関係しているのではないかと想像されています。男女の相性や性格など、ヒトの高次行動をいかに紐解いていくか。今は記憶、学習にHLA以外の遺伝子がどのように関係しているか詳しくは解明されていないので、HLAを基にそういう高次行動を明らかにしたいですね。」



HLAについて様々な研究を続ける猪子先生。

研究を続ける一方、HLAの啓蒙や広報にも力を入れられています。
先生が社長を務めるジェノダイブファーマ株式会社では、移植の適合性、癌ペプチドワクチン投与、疾患との関連性、薬剤副作用予測のためのHLA 検査の受託をはじめ、製薬会社と薬剤副作用や効能予測などの研究についてHLAの視点からのコンサルティングなどを実施し、薬剤の効果などでヒトにより差が出る理由の解明などもサポートしています。








猪子 英俊


ジェノダイブファーマ株式会社
代表取締役 猪子 英俊 先生

1975年 京都大学 理学研究科 ウイルス研究所 博士課程修了
1976年 慶應大学 医学部 分子生物学教室 助手
1984年 東海大学 医学部 移植学教室 講師
1988年 東海大学 医学部 移植学教室 助教授
1992年 東海大学 医学部 分子生命科学部門 教授
2000年 東海大学 医学部 副医学部長
2002年 東海大学 医学研究科 科長
    ジェノダイブファーマ株式会社 代表取締役
2006年 東海大学 医学部 医学部長
2007年 東海大学 総合医学研究所 所長
2012年 京都大学 iPS細胞研究所 特任教授
2013年 東海大学 名誉教授




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ジェノダイブファーマ GenoDivePharma


ジェノダイブファーマでは、各種HLAタイピング検査の受託をおこなっております。
当日に結果が分かる手法から、NGSを用いた超高精度解析までラインナップ。
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