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3分でわかるキーストーン
カネカ谷口修平先生




カネカの再生医療関連製品開発の経緯


株式会社カネカ 再生・細胞医療プロジェクト
図A:株式会社カネカ 再生・細胞医療プロジェクトの風景

近年、日本国内や海外でもMSC由来の細胞製剤の販売が開始されました。カネカ社は、MSCを用いた細胞医療の実用化が最も早いと考え、開発初期より再生医療関連の周辺機器として、MSC分離デバイスや自動細胞培養装置の開発に着手し、2009年以降、上市してきました。現在カネカ社では、再生・細胞医療プロジェクト部門の牽引により、羊膜MSC製剤の開発や、脂肪由来MSCを用いた乳房再建技術の開発も進め、再生医療への取り組みをますます加速させています。

細胞製剤を作るプロセスに使用できるものを提供する、というスタンスで、細胞濃縮洗浄装置の開発に携わってきた、と谷口さんは語ります。

「カネカには吸着体で培った、目的とする物を選択的に分離する技術があります。再生医療の実現化に向けて、この技術の応用を考えました。」

どの細胞でも培養後に濃縮洗浄する工程は必要です。一般的に細胞の洗浄は遠心分離にて行われます。10mL程度の細胞懸濁液の洗浄であれば短時間で終了しますが、遠心分離を用いる場合には、細胞懸濁液を開放するためコンタミリスクが伴います。培養細胞の製剤化を考えた場合、コンタミリスクを抑えつつ、マススケールでの洗浄が必要です。大量の細胞懸濁液を閉鎖系で遠心分離することは技術的に難しく、細胞製剤の製造過程で課題となるであろうと考えたと言います。



ノウハウを活かした新しい細胞洗浄


細胞濃縮洗浄装置
図B:右側面のバッグに入った赤い液が
培養後の細胞懸濁液。回路に入った懸濁
液は、中空糸膜の流路内を循環し、
濃縮・洗浄された細胞は最終的に回収
容器に入る。細胞は浮遊した状態で
あれば処理が可能。

細胞濃縮洗浄装置は、培養した細胞懸濁液が入ったバックを回路に接続し、閉鎖系流路内の中空糸膜によって最大10Lの細胞懸濁液を、20~80mLの細胞濃縮液と培養液成分に分離する装置です。
「不織布や中空糸等、様々な膜を試した結果、細胞の濃縮・洗浄には中空糸膜が一番マッチしていました。カネカには中空糸を製造する技術やノウハウがあり、この技術を使えばニーズにあった製品を作れると考えました。」

遠心分離で濃縮・洗浄を行う場合、その回転数が高ければ細胞にダメージがあると言われ、一方、回転数を下げると細胞のロスが増えるという悩ましい問題があります。しかし、この細胞濃縮洗浄装置では最小限のロスで、より良い品質の細胞を処理・回収することが可能です。この細胞濃縮洗浄装置は、中空糸膜のろ過器を採用することでマススケールの洗浄が可能なうえ、ダメージが小さく、バラつきの少ない細胞を回収できることが特長です。また、閉鎖系回路を用いる事でコンタミリスクを軽減、自動化による運用コスト低減も期待出来ます。


「細胞製剤の製造工程では、せっかくの質の良い細胞でも、最終的に遠心分離による洗浄工程でダメージを与えてしまうことがあるようです。一方でこの細胞濃縮洗浄装置を用いることで、洗浄後の細胞の生存率や機能において、遠心分離に対して有意な差が認められました。」

医療の現場では、人工心肺等のペリスタポンプによる赤血球の溶血も話題に上ります。この細胞濃縮洗浄装置も送液にペリスタポンプを用いていますが、細胞が壊れてしまうことはないのでしょうか。

培養液の処理フロー
図C:遠心分離と中空糸膜による分離の原理。


「白血球に近い大きさの細胞で検討した結果、殆どが生存していました。ペリスタポンプにより溶血すると言われておりますが、それは赤血球の数が要因と考えています。赤血球は数が非常に多いため、その数%が溶血しただけでも赤くなり目立ちます。しかし、研究者や製造者が細胞の製剤プロセスに求める生存率が90~95%程度であれば、ペリスタポンプで問題はありません。また、細胞が浮遊した状態であれば、接着細胞でもスフェロイドでも使用可能ですが、スフェロイドを洗浄した際にも完全に壊れるということはありませんでした。流路の一番細い箇所は、中空糸内径で570μmですが、スフェロイドは100~200μmなので、ある程度形を維持したまま濃縮できることを確認しています。」


その他の用途


この細胞濃縮洗浄装置は色々な回収容器に対応しています。回収容器に新しい培養液を用意しておけば、コンタミのリスクなく培地交換が可能です。研究者からは、細胞の濃縮洗浄以外にも、培養上清の回収やワクチンの製造、ウィルスの濃縮をしたい、という話もあり、廃液側に含まれるものを利用した新しいアプリケーションに気づくことも多いそうです。

カネカメディックス社とカネカ社、谷口様と五味様
図C:裏話まで話してくれる㈱カネカの五味様と谷口様

「中空糸膜による分離はサイズによる分離なので、求める成分を選択的に回収できるわけではありません。もし研究者が必要とするものが廃液側に含まれるのであれば、再利用することも可能かもしれません。また、例えば、市販の孔径の小さな透析器などを回路につなぐことで、低分子の濃縮も可能と考えられます。私が研究者として興味を持つのは色々な種類の膜です。この製品は非常にシンプルで、汎用性の高いプラットフォームなので、様々なニーズに対応できる様にバリエーションを用意すれば、アプリケーションの幅は広がるかもしれない。今は『細胞を通さずに液体は通す』という純粋なろ過だけですが、膜の種類を増やすことでこれらのニーズに対応できるでしょう。」

シンプルな構造であるが故の柔軟性を持つこの細胞洗浄濃縮装置。今後の展開を尋ねてみました。「回収バック等の無菌接合を希望されるお客様が多くいらっしゃるため、対応できる形にしようと思います。また、今はディスポーザブルキットを3つのパーツでお届し、クリーンベンチ内で接続してから使って頂いておりますが、使いやすさと安全性を高められるよう、プレコネクト等の提案をしていきたいと思います。」

閉鎖系システムが生み出す新しい可能性


再生医療は新しい技術であるが故に、今後、実用化に向けて様々なニーズが見出され、それに対する新しい技術の開発が進むのではないでしょうか。最後に、「閉鎖系」「自動化」「効率的」という3つがコンセプトである細胞濃縮洗浄装置がもたらす可能性について語って頂きました。

「自動培養装置はその重要性や役割が非常にわかりやすく注目されますが、「洗浄」工程に対するソリューションは、あまり着目されていませんでした。細胞製剤のプロセスには「濃縮洗浄」という必ず通る工程があり、ようやく洗浄装置にも興味を持って頂けるようになりました。
また、CPCを維持するのは大変です。一部分でもいいから閉鎖系のディスポーザブルデバイスを使うことで、全体のコストやリスクを下げるという考え方は、一貫して弊社のモノづくりの中にあります。はじめに細胞を採取し、その後に培養し、最後に製剤化する。今はまだ断片的ではありますが、その全てをディスポーザブル化する。それらをうまくつなげることによって、将来的にはCPCを使わない提案もできるのではないかと思います。」

医療従事者は、患者様の状態を少しでも改善したいという想いから、より良い方法を日頃から模索しています。今回、細胞治療という新しい分野において、従来の遠心分離による細胞の濃縮・洗浄に代わる新しいシステムが発売されました。医療に携わる人たちの想いと、それを支える技術開発者達の想い。この2つによって新しい治療技術が発展していく様を、今私たちは見ているのかもしれません。




谷口修平先生プロフィール


株式会社カネカ
医療器事業部 技術統括部
医療器研究グループ

谷口 修平 様

2004年京都大学大学院工学研究科 修士課程終了
2004年株式会社カネカへ入社、現在に至る




本記事で紹介した製品はこちら!



細胞濃縮洗浄システム


細胞懸濁液の濃縮、洗浄を自動的に行うマシンとディスポセットのシステムです!

◀細胞懸濁液を自動で濃縮・洗浄(培地を生理食塩水などに置換)
◀閉鎖系での処理が可能
◀細胞懸濁液3L(最大値)を約30分で80mLに濃縮(洗浄操作を含む)
◀生理食塩水1Lの洗浄操作により、回収液中のタンパク質総量が
 細胞懸濁液中のタンパク質総量に対して0.05%以下に低下
※FBS加RPMI1640培地に懸濁したヒト活性化リンパ球3Lを処理した場合の測定値
※本システムを、疾病の治療や臨床用途を目的として使用しないでください。


株式会社カネカメディックス 細胞濃縮洗浄システム



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