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細胞シートと共に

治療に結びつく研究を(前編)

再生医療では、革新的な技術によりその実現に向けた様々な研究が進んでいます。細胞シートを用いた研究もまさにその一つです。今回、細胞シートの作製に欠かすことができない温度応答性培養皿「UpCell®」を用いて、組織工学的なアプローチで再生医療の実現化に取り組まれている東京女子医大の関谷佐智子 助教をお訪ねしました。

研究を始めた当初


「着任当時は一般的な細胞培養の知識しかなかった」と当時を振り返られた関谷助教は、細胞シートによる臨床研究に取り組みつつある東京女子医科大学 清水達也先生(現教授)のもとで、2003年より再生心筋組織内における血管再生に関する研究をスタートしました。

温度応答性培養皿での細胞シート回収.png

 培養している細胞がコンフルエントな状態となった場合、通常の細胞培養技術では、細胞を培養皿から回収する為にタンパク分解酵素により細胞と器材間の接着を破壊する必要があります。しかし、同時に細胞間の接着も破壊されてしまうために「機能を持った組織」にすることが難しく、scaffold等を用いない限り再生医療に利用可能な組織作製が難しいという課題がありました。

温度応答性培養皿UpCell®は、タンパク分解酵素を用いること無く、温度低下のみで細胞間の接着を保持したまま細胞を回収可能な培養皿として開発されました。東京女子医大の清水先生は、これを用いて細胞が機能的組織を構築している状態を崩さずに積み重ね、三次元構造をもつ心筋組織の作成手法を研究していました。しかし、再構築した厚い心筋組織は血管がない為に内部の栄養や酸素が不足し、老廃物の排出が困難な為に内部細胞に壊死が生じることが問題となっていました。清水先生はこれを解決するため、厚みを持たせた心筋組織の内部に血管を通そうと研究を開始したところでした。



再生組織内の血管網再構築へ


生体内の心筋組織には心筋細胞の他、線維芽細胞や血管内皮細胞等の細胞が各々の役割を持って存在しています。心筋細胞を培養する際、多くの分子生物学的研究では心筋細胞の反応をより正確に観察するために、心筋細胞を純化することを目的として線維芽細胞や血管内皮細胞を出来る限り除く処理が行われていました。関谷先生は組織工学的に血管構造を作るためには血管構築細胞がそのまま混在した方が良いのではないかと考え、UpCell®を用いて心筋細胞と血管内皮細胞を混在させた細胞シートを作成し、心筋組織内部への血管誘導を試みたのです。その結果、心筋細胞が出す液性因子が血管内皮細胞等に作用し、日を追うごとに血管内皮細胞が増加して互いに連結し、血管内皮細胞のネットワークを形成することに成功しました。


cell network

フィーダーとしての共培養ではなく、心筋細胞と血管内皮細胞を混合して共培養することにより細胞シート内に血管内皮細胞のネットワークを形成した関谷先生でしたが、この血管内皮細胞のネットワークが生体内で血管へと成熟化するメカニズムが気になっていたと言います。その際常に念頭においていたのは、EPC(endothelial progenitor cell:末梢血に存在する血管内皮前駆細胞)でした。

従来、一つの細胞から血管が発生する「脈管新生(Vasculogenesis)」は胎児期にしか起こらないと考えられていましたが、EPCの発見により、成体においてもEPCが細胞から血管を作る脈管新生を行っていることが明らかになりました。その為関谷先生は、移植した心筋組織の内部の血管の原料となるのは「レシピエント (移植される側の生体)」のEPCや周辺の血管に由来する細胞ではないのかと考え、それは多くの移植研究でも同様のことが報告されていました。

「この血管内皮細胞のネットワーク構造はどうなるのか?なにか意味があるのか?」その疑問を明らかにするために、血管内皮細胞のネットワーク構造を有する積層化心筋組織と、ネットワーク構造を持たない積層化心筋組織をそれぞれ移植したところ、血管内皮細胞のネットワーク構造を有する細胞シートにおいて移植3日後には血液の通る血管が構築されていましたが、ネットワーク構造を持たない積層化組織では血管が構築されないという現象が観察されました。

移植後の非常に早い心筋組織内の血管構築スピードは、移植した組織内の血管内皮細胞のネットワーク構造が、移植後に生体内で素早く血管として血液を通す機能を発現したことが大きく寄与していると考えられています。このような心筋組織内の血管再構築は心筋シートを血管内皮細胞のネットワーク構造を保ったまま培養皿から回収、積層化することを可能にするUpCell®が存在しなければ、分からなかったことだと思います。

「生体外の血管内皮細胞のネットワーク構造は、生体内での血管形成に寄与する」という現象を目の当たりにした関谷先生は、「扁平で、単純に手を伸ばしているような」血管内皮細胞のネットワーク構造が立体的な管腔構造へと変化する生体内の現象のきっかけを調べることに着手しました。

「生体内をまるごと再現することは大掛かりなので、一つ一つの条件を確かめました。」関谷先生は既存の血流が起因するのかと考え、物理的刺激を加えたり、細胞シートの積み重ねにより組織に厚みを持たせたり、ペリサイト(周皮細胞)との共培養を試みたりと様々な条件を検討したところ、非常に少ない静水圧を付加する程度の培養にて血管内皮細胞のネットワーク構造の形態が変化し、管腔構造が増加することを見出しました。関谷先生はこのような解析から、移植によって起こるレシピエントの血流や体液の流れの変化で生じる物理的環境の変化、また移植された組織の血管要求の相互作用が管腔形成を促進するのではないかと考えています。


関谷先生


東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 助教
関谷 佐智子先生

薬学博士   専門:組織工学
左から SPEIDEL Alessondra 博士, ALSHAREEDA Alaa Tarig博士, 関谷助教, ALSAYEGH Khaled 博士

同年東京女子医科大学先端生命医科学研究所にて細胞シート工学による心筋組織再生について研究を開始。
海外から細胞シート工学を学びに留学している方々と一緒にTWIns ラウンジにて。




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◀温度制御により簡単に細胞がシート状に回収可能
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株式会社セルシード 温度応答性プレート UpCell®