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3分でわかるキーストーン

再生医療の拡大に向けた医理工産学融合

–温度応答性培養皿UpCell®細胞シートの開発-

再生医療技術の一つとして注目を集める「細胞シート工学」。細胞シートの作製にはセルシード社の温度応答性培養皿UpCell®と、研究者や技術者達の情熱が必要不可欠でした。当時の様子や使用する上でのポイントから、再生医療の産業化に必要なものまでを東京女子医大 清水達也先生に語って頂きました。

清水 達也

当初、温度応答性培養皿はラボで一回に4枚ずつ手作業で作製しており、歩留まりがものすごく悪い中で、薄い内皮細胞や腎臓の上皮細胞等で細胞シートの研究が行われていました。当時は温度応答性培養皿の品質も安定せず、この原因として作成手技の個人差等が議論にもなったのですが、作成を2,3年繰り返してようやく品質の差に季節性(気温・湿度の影響)があることが明らかになり、これらの問題を解決することができました。

そういったノウハウに徐々に気づき出した頃、セルシードが立ち上がりました。温度応答性培養皿UpCell®は東京女子医大の装置を使ってセルシードの社員が作成していました。我々は作成方法を教えていたのですが、当時は作成者が変わればUpCell®の品質も変わり、供給自体が止まることもありました。そういう期間は細胞シートを使わない研究をしていたこともあります。最初はセルシードの社員の方々も非常に苦労されたと思います。我々もセルシードの傍にいますから、原因について何度も調整や議論を重ね、我々の持つノウハウや新たな現場での気づきをセルシードの新たなノウハウとして蓄積していったのです。


UpCell®を使う上でのポイント


 UpCell®を使う上で非常に重要なポイントの一つとして「培養にもコツがいる」ことが挙げられます。UpCell®の品質が均一でも、培養する細胞は種類によって接着の仕方が違います。細胞の種類の他、播種濃度、プレコーティング※1、培養日数、剥がし方、これら全てにノウハウがあります(※1:培養前の細胞接着因子のコーティング)。私の場合ですと、心筋細胞は線維芽細胞が混じる為に比較的接着は良く、しかも少し分厚くなるためにしっかりとした細胞シートとなり、温度を下げれば簡単に心筋シートが剥がれ、積層化することができました。しかし、接着しにくいような細胞の場合にはUpCell®の表面に血清やフィブロネクチンなどの接着因子をあらかじめコーティングすることで、付着あるいは遊離しにくい細胞への対応が可能です。また、細胞シートを剥がす際には、我々はインキュベータで20度に温度を下げて細胞シートを剥がしていましたが、単純に「温度を下げればいいだろう」と室温に放置すれば、やはり結果が異なります。

器具

 UpCell®のカタログを読むと、どんな細胞でも普通に培養でき、接着しても剥がれると期待しますよね。でもやはり培養側にもコツが必要です。細胞シートを回収し、積層して移殖する研究がしたい研究者は、このことを理解したうえで使って頂くとUpCell®の良さがわかるはずです。セルシードがUpCell®の販売を始めた時は、購入した研究者から色々クレームがあったと思いますし、研究から撤退した研究者もいると思います。私たちも論文やプロトコル等を多く書き、セルシードのマニュアルもノウハウが蓄積して充実してきた今なら過去の課題を解決できるかもしれません。また、温度応答性培養皿だけでなく、細胞シートを取り扱う補助デバイスが今後セルシードから発売される予定です。その一例がスタンプの様な使用感で細胞シートを保持して移動・積層ができるデバイスです。そういったノウハウを組み合わせることで更に様々な細胞に対応できるようになり、今後アプリケーションも増えると思いますし、逆にユーザーからの新しいアプリケーションが創出されるのではないかと期待しています。


UpCell®の魅力


UpCell®の独自性は「温度応答性培養皿」そのものだけではなく、2次元のものを重ねて3D化するというコンセプトにあると考えています。欧米ではもともと3Dのスキャフォールド(生体分解性の支持体)を作って細胞を充填しており、製品化もされています。しかし肝臓、腎臓、心臓のように細胞密度の高い臓器を作製するには細胞を高密度に充填することが難しいということが課題です。それに対してUpCell®を用いたティッシュエンジニアリングでは2次元の細胞シートをブロックのように重ねて組織を作製します。細胞シートは薄いために重ねる必要があり、重ねるためには血管を入れないといけないという課題もありますが、2次元の最密な状態を直接重ねれば3次元での高細胞密度組織の作製が可能です。

 細胞シートの間の温度応答性の高分子はどうなるのかとよく質問を受けますが、温度応答性高分子はUpCell®側に残るので、それは誤解です。細胞シート下面には温度応答性高分子はなく、細胞あるいは血清由来の細胞外マトリクスのみが残存しており、得られた細胞シートはピュアな2次元の細胞の集まりです。異物を含んでいない為に移植をしても炎症を全く起こさないですし、そのメリットは移殖を考えれば非常に大きいと思います。

 2次元の細胞シートを重ねて3次元にする技術は、磁石を使用したもの等色々なアイデアがあります。UpCell®と同じような細胞外マトリクスができるようにもなってきていますし、UpCell®の良いライバルだと思っています。しかしUpCell®は温度を下げるだけですから、手技や色々な補助デバイスのラインナップを考えると、UpCell®で培養できる細胞であれば、他の技術よりはベターだと思っています。

関連デバイス

医工産学融合 -再生医療の発展に向けて-


 日本はiPS細胞や細胞シートの技術等、色々な良い技術を持っています。今後はそれをどう拡大し、コンビネーションを作るかということが非常に重要になるでしょう。温度応答性培養皿もセルシードが作らずに自前で作製して自分たちだけで使用していればオリジナルな研究を継続することはできても、澤先生や一緒に研究してくださる人達も集まらなかったことでしょう。現在細胞シートを用いた6つの臨床研究が複数の施設で始まっていますが、それもおそらく始まっていなかったでしょう。しかし、UpCell®等の器材がセルシードにより製品化されていることで、細胞シートを用いた研究が広がり、患者様の救済にもつながっています。細胞シートを使用した全く関わりのない研究者の論文を見て「あぁ良かった、こっちでも利用されてる」と実感できます。

 今、国の主導によりオールジャパン体制で再生医療の研究や産業化が進められています。我々も複数の大学や企業との共同でいくつかのプロジェクトを推進していますが、その中で複数の企業間をコーディネートすることの重要性と難しさを感じています。企業および研究者の間では、最初から可能な限りオープンマインドで協調的に開発しないと、海外に先を越されてしまいかねない状況です。研究者は自分の論文、企業は自社製品と主張しがちですが患者様を救うという目的に皆で協力して技術結集することが重要なのです。

 私も澤先生達と一緒にやり始めた時は自分が細胞シート関連の論文を書くか書かないかという時でした。しかしその時に、「自分がある程度業績をあげてから」と思っていたら、おそらくそこで澤先生との関係は終わってしまっていたと思います。しかし、澤先生達に細胞シートを用いて研究して頂くことで、細胞シートによる研究が活性化、国も注目して、予算的にもいろいろな支援を受け、数多くの共同研究と成果がもたらされています。その結果6つの領域での細胞シート治療が臨床応用されるとともに、臓器作製を目指した研究も継続的に行うことができているのです。そういう良い回転、良い雰囲気をアカデミアのみならず企業も含めて作っていきたい。ですから、企業と研究者のマッチングをテーマにしている「キーストーン」もそういうことに貢献していただけると期待しています。


TWInsの取り組み


 我々が取り組んでいるプロジェクトに組織ファクトリーという全自動培養装置があります。採取した筋肉組織を入れておけば自動的に筋芽細胞シート作って積層化までしてくれるというものです。澁谷工業㈱、㈱日立製作所、㈱日本光電、エイブル㈱、㈱セルシード、東京女子医大、大阪大学の紀ノ岡先生が共同で取り組んできたものです(FIRST 研究代表者:岡野光夫)。今このプロジェクトは紀ノ岡先生がリーダーになり、継続的・発展的に研究開発が行われています。その他、iPS細胞から心筋シートを作りチューブ化、還流培養装置を用いて血管網を付与しながら段階的に積層化することで補助ポンプ型心筋組織を作るプロジェクトを進めています。最終的にはチューブに厚みを持たせてブタに移殖できる心筋組織を作ることを目的としています。

 一方、TWInsはバイオメディカルカリキュラムという独自の社会人教育を実施しており古くから医工・産学連携の土壌が備わっております。今年で47期になります。50年以上前から東京女子医大は心臓外科医のメッカで、工学系の研究者や企業のエンジニア人が出入りしていました。その頃に岡野先生も学生として抗血栓性の材料を研究されていたそうです。医学部以外の人にも医学を教えないと良い研究ができないと、工学系や企業の方を対象に医学を1年でまとめて教えるというカリキュラムを行っています。座学以外にも心筋シートの移殖を含む動物実験などの実習があり、東京女子医大の先生の他、外部の先生を招聘して一年で濃密に医学を学ぶというカリキュラムです。医療機器メーカーの方が多いですが、文系出身の方もいらっし ゃいますし、ご興味のある方は是非応募してみてください。一緒に先端医療を切り開きましょう。





清水 達也3


東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 教授
清水 達也先生

1992年:東京大学医学部医学科卒業。
1999年:東京大学大学院医学系研究科博士課程卒業。
同年東京女子医科大学先端生命医科学研究所にて細胞シート工学による心筋組織再生について研究を開始。
2011年:同研究所の教授就任、現在に至る。




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◀温度制御により簡単に細胞がシート状に回収可能
◀回収した細胞シートは細胞外マトリクスを完全保持
◀細胞に障害を与えるトリプシンが一切不要
◀再生医療研究に用いる組織の培養に
◀ホモ/ヘテロな細胞シートを重ねる3D培養に


株式会社セルシード 温度応答性プレート UpCell®