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心臓を作る!

-細胞シートから補助ポンプ型立体心筋組織までの道のり-

再生医療技術の一つとして注目を集める「細胞シート」。細胞シートの作製にはセルシード社の温度応答性培養皿UpCell®と新しい治療法の創出を目指す研究者達が深く関わっていました。
当時の様子を東京女子医大 清水達也先生に語って頂きました。

清水 達也

私が大学院に入学した20年程前、当時は臨床志向であったので循環器内科で治療に携わり、将来的にはカテーテル治療のスペシャリストになろうと考えていました。一方、大学院での研究としては心筋細胞を用いた分子生物学的な解析の研究を行っていましたが、循環器領域での分子生物学研究の多くが他の領域の後追が多かったように思います。私も大学院でPDGFという血小板由来増殖因子をテーマに研究を行い、PDGFが心筋細胞の肥大や増殖に働く作用やそのメカニズムを遺伝子レベルで解析をして博士号を取得しました。
臨床と研究を並行してこなしながら4年が経過した頃、次の選択肢としては留学して基礎研究を進めることが考えられたのですが、私は分子生物学的な研究と臨床の間にギャップを強く感じていました。臨床に携わりたいという気持ちも強くあり、治療に繋がる新しいものを作りたいと考えていたのですが、「分析、解析する分子生物学の研究」から「新しいものを作る研究」が想像できなかったのです。何か新しいことをするならとにかく「作ること」に携わりたいと考え、たどり着いたのが再生医療でした。


再生医療、そして温度応答性培養皿との出会い


私の興味は再生医療の中でも「Tissue engineering」という「作ること」を目的とした研究でした。心筋細胞の中の遺伝子・蛋白発現を解析するよりも「細胞を材料として組織・臓器をどう組み立てていくか」ということを研究したいと思ったのです。当時は、肝臓などの組織再生の研究が始まった頃で、心臓はまだ研究が進んではいませんでした。日本でも1995年頃から「再生医工学」いう学問が起こり始めており、そのような研究を実施している施設に自ら「心臓を作りたい」と言って掛け合いました。
温度応答性培養皿は1992年頃に東京女子医大で岡野先生が開発されました。最初は一個の細胞の培養基材への接着や脱着を温度変化のみで制御することが目的でした。その後、細胞を増殖させて2次元に培養した後で温度を低下させることでシート状の細胞の回収が可能となり、さらにこれを重ねることで組織や臓器を作るというコンセプトが提案されていたのです。それを見た時に、医者の世界でも細胞を使って「作る」研究があることにものすごく新鮮味を感じ、留学をキャンセルして東京女子医大にきたのが再生医療に携わるきっかけです。

当時は心臓そのものを作ることを考えていました。分子生物学の研究ではラット等の心臓から細胞を取得するのですが、細胞はバラバラにしても動いているので、逆に細胞を組み立てて心臓に戻せるのではないかなと半分冗談で先輩の研究者と議論していたこともありました。そういったこともあり、「温度応答性培養皿を用いて回収した2次元のシートを重ねて3次元化する」というコンセプトを見た時に「やりたかったことができるかもしれない」と思いました。私は当初、厚みをもった組織を作り、物理的に心機能を補助するような治療を開発することを目標に研究を開始しました。その後、いろいろな共同研究もはじまり最近早期承認された、「ハートシート®(テルモ株式会社)」の様に「貼った細胞シートから出るサイトカインが血管新生や心機能改善を促す」という治療法を目指した研究開発も並行して始まりました。

人工臓器、細胞組織再生研究室


細胞シートの作成、大阪大学との共同研究開始


東京女子医大に移動した当時、細胞シートの治療対象となる部分について色々と検討した結果、角膜と心臓と血管をターゲットに考えました。角膜は薄いので、組織再生にはシート一層でいいだろうと考えましたが、心臓は厚みがなければ物理的な力を出せないので細胞シート積層化により厚みを持たせることが必要だと考えていました。

細胞シート

1999年に私が女子医大へ来た時にはまだラボには動物実験室はありませんでしたが、重ねた細胞シートが拍動しているのを見ていると動物に移植したくなったので、現在の本部棟にある小さな部屋の中に動物実験室を作り、ヌードラットに細胞シートを移植しました。そうすると体外よりも体内に移植する方が血管が細胞シート内部に入り込んで活性化し、長期に生き残って拍動し続ける状況を確認できたのです。研究を開始してから1年が経過して研究結果を学会で発表し始めた頃、人工臓器学会で澤 芳樹先生(大阪大学心臓血管外科 教授)から「心臓に貼るところを是非やらせてほしい」と声をかけて頂きました。自分でやりたい気持ちもありましたが、僕は内科医だったので心臓への移植は外科医に任せた方が良いと思いました。澤先生達が一緒にやろうと声をかけてくださったのは非常に嬉しかったです。当時はES細胞がありましたが、まだiPS細胞もなかったので、ヒト心筋細胞を用いた再生医療の臨床化には非常に高いハードルがありました。しかし患者さんの筋肉の細胞から作られる細胞シートであれば臨床に使えると澤先生達は考えてくださっていたのです。澤先生達に心臓に貼るところをやって頂けるなら女子医大では当初の目的に向けて拍動する心筋組織を作ろうと考え、次世代の再生治療に向けて細胞シートを積層化して厚くする事と、細胞シートをチューブ状にしてポンプ機能を持たせようと決めました。

補助ポンプ型立体心筋組織の作製を目指して


拍動する細胞シートを筒状のポンプにする取り組みは、2005年頃にラットの細胞を使っている頃に大学院生の研究として進めていました。最初はフィブリン等のチューブを土台として作り、その上に細胞シートを手作業で少しずつ巻いていきます。その大学院生は工学系の社会人の方だったので、UpCell®に押し付けて細胞シートを巻き取る装置を作製し、拍動する心筋チューブを作製したんです。心筋細胞シートは4枚重ねるだけで酸素・栄養が届かず壊死してしまうのですが、同様にチューブにするのも3枚くらい重ねるのが限界です。そこで心筋チューブを作る研究は一時中断し、細胞シートを重ねて作製する組織に血管を入れる研究に注力しました。細胞シートを厚い組織にするためには、毛細血管を入れなくてはいけません。細胞シートに血管内皮細胞を入れ、還流培養装置を作製し、その結果細胞シート内部に血管を導入することができました。これらの技術もまだ完璧ではありませんが、いよいよ血管を入れる技術と組み合わせて厚いチューブを作製しようと思っています。

心筋チューブのイメージ


新しいプロジェクトではヒトのiPS細胞を使ってこの拍動する心筋チューブの作成に挑戦しています。ラットの細胞を使った組織はモデルと言ってもヒトとは異なります。しかし、ヒトのiPS細胞であれば臓器まで作製できなくても創薬におけるモデルとして充分使えます。現在ヒトiPS由来心筋細胞シートをチューブ化し、さらに血管網を付与することでポンプ機能を有する立体心筋組織を作るという研究を始めたところです。まだプロジェクトが始まって1年。まだ3年以上ありますが、その間にブタに移植できるヒト心筋細胞でできた補助ポンプ型の心筋組織を作ることを目的にしています。いつも「定年まで」と言っていますが、拍動する厚さ1~2mm(時間と予算があれば1cm)のチューブを作るというのが私の研究のゴールだと思っています。そこまで達成できれば、研究したい若手もいるでしょうし、多くの人が再生医療のポテンシャルを認めるでしょう。今の再生医療に関してはまだ、外科医や内科医の先生方でも薬や手術で同等の治療ができるのではという意見もあります。ですから、数cm径の拍動する心筋チューブを作り、これが血液を送り出せるようになれば、更に再生医療というフィールドの研究は前進すると思っています。


清水 達也3


東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 教授
清水 達也先生

1992年:東京大学医学部医学科卒業。
1999年:東京大学大学院医学系研究科博士課程卒業。
同年東京女子医科大学先端生命医科学研究所にて細胞シート工学による心筋組織再生について研究を開始。
2011年:同研究所の教授就任、現在に至る。




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◀温度制御により簡単に細胞がシート状に回収可能
◀回収した細胞シートは細胞外マトリクスを完全保持
◀細胞に障害を与えるトリプシンが一切不要
◀再生医療研究に用いる組織の培養に
◀ホモ/ヘテロな細胞シートを重ねる3D培養に


株式会社セルシード 温度応答性プレート UpCell®